残るものと残らないもの

ルーヴル美術館・大英博物館・メトロポリタン美術館といった世界的なミュージアムでは、エジプトや中国やギリシアなどの古代の文明の遺物を見ることができます。

タニスの大スフィンクス
ルーヴル美術館所蔵 タニスの大スフィンクス
紀元前2600年頃 花崗岩

そのような昔の美術工芸品類で現在まで残っているのは、石の彫刻、陶磁器類、そして青銅や金などの金属製品です。古代オリエント文明の粘土板で残されているのは、割れた断片か小さいものが多いようです。木製品はあまり保存されていません。紀元前91年頃に成立した司馬遷の『史記』は竹簡で書かれていたとされますが、原典は発見されていません。現在残っているのは後代の写本です。

そして紙類。パピルスは古代地中海世界で広く用いられたとされていますが、気候が乾燥しているエジプト以外では、古代のパピルスはごくわずかしか残っていないようです。現存する最古のパピルスは、エジプト第1王朝のデン王の高官ヘマカの墓の箱に入っていた白紙のパピルス巻物とのことです。紀元前2900年代中ごろと思われます。またエジプト以外で発見された最古のパピルスは紀元前750年ごろのもので、ヘブライ語で書かれ、死海付近の洞窟ムラッバアトから出土したそうです(『パピルス──偉大なる発明、その製造から使用法まで 大英博物館双書 古代エジプトを知る 2』、リチャード・パーキンソン/スティーヴン・クワーク著、近藤二郎訳、學藝書林、1999、p.26、p.103)。

中国では漢の時代に紙が発明されましたが、古い紙はカビや腐敗で失われたり、たび重なる戦乱や天災で焼けたため、あまり残っていないようです。中国甘粛省で出土した、世界最古とされる紙には、前漢時代の地図が書かれており、紀元前150年頃と推定されているそうです。

このように、石や金属や陶磁器の遺物がどこの博物館にも所蔵されているのに対して、古代の紙類で現在まで保存されている例は少ないため、それらを見られる機会は限られています。紙とは、もろくはかないものです。

アテネ国立考古学博物館所蔵
アフロディテ像 大理石
カイロ考古学博物館所蔵 ツタンカーメンの黄金のマスク 紀元前1300年頃 ラピスラズリ等の鉱物性の無機顔料によって着色され、きわめて色あせしにくい。
カラー写真の寿命

カラー写真の場合、一般的な発色現像法による銀塩写真であれ、インクジェットプリンタによる出力であれ、おおむね100年程度の耐久性とされています。これは暗い場所に保管し、変色を及ぼすガスから遮断されているという、理想的な保存状態と仮定して、100年後には当初の色が70%程度残っていると見込まれる、ということです。100年後にもまったく変質していないという意味ではありません。しかも、現実には紙ですからシワや折れもできますし、湿度が高ければカビや水のにじみも発生します。有害ガスや紫外線の影響もなかなか防ぎきれません。カラー写真はよくて100年しか残らないのです。実際にはせいぜい4、50年というところでしょう。

右の画像は、ガラスつきの写真フレームに入れて室内に飾られていた写真です。直射日光に当たっていたわけではなく、部屋の奥のタンスの上に置かれており、ごく普通で穏当な保管状態でしたが、わずか15年程度で、露出していた部分がはっきりわかる程度に変色してしまいました。なお、レーザー露光式プリンタによる銀塩カラー印画です。

オフセット印刷など有版式の工業的な印刷物も、同様に10数年程度で変色するのは誰しもよくご存じでしょう。

耐久性が高い銀塩カラー感材としては、かつて、ポジフィルムのコダクローム、ポジ印画紙のイルフォクローム(旧チバクローム)がありましたが、いずれも生産が打ち切られました。ダイトランスファープロセスという写真印刷法によるプリントもやはり耐久性が高いとされますが、その材料は現在工業的には製造されておらず、製作は困難です。

褪色写真
日に焼けた写真。周辺部はフレームで隠れていたので褪色が少ない。
モノクロ写真の場合

では一般のモノクロ写真はどうでしょう。

ゼラチンシルバープリントと呼ばれる従来型の銀塩モノクロ写真は、銀により画像が形成されていて、染料や有機顔料を色素としたカラー画像より耐久性が高いとされています。

ゼラチンシルバープリントのなかでも、バライタ印画紙と称される伝統的な印画紙に焼き付け、薬品が残留しないよう入念に処理されたものは、特に長期保存性を要求される用途に用いられることが多く、これをセレニウムや金などで調色すると、耐久性がより高まるとされています。

また、銀ではなくプラチナやパラジウムを用いた印画法はさらに長期保存性を有するとされ、一説には保存条件がよければ300年程度の耐久性があるとされています。

しかし、これらもつまるところは紙の上に付着した階調情報に過ぎません。光が当たり続けていればどんな紙でも変質・変色しますし、ちょっとした力でたやすく損傷します。

それなら紙以外のベース材はどうなのでしょうか。

銀メッキした銅板に焼き付けるダゲレオタイプという印画法によるモノクロ写真も画像を長期間保存できるという説がありますが、これはきわめて傷つきやすく、外気に敏感なため、厳重に保管しなければ簡単に劣化してしまうようです。

コダックのVISION3デジタルセパレーションフィルム2237や富士フイルムのETERNA-RDSといった映画保存用フィルムは、カラーフィルムを3色分解し3本のモノクロフィルムにデジタル露光するという、ダイトランスファー方式による昔のテクニカラーの焼き直しのような製品です。1990年代中頃のコニカでは写真でそのようなサービスを行っていました。それらのアーカイヴフィルムには数百年の耐久性があるという人もいますが、所詮はエスターベースやポリエステルベース(PET)です。厳重に管理された環境でしか長期保存できませんし、物理的な損傷のしやすさは他のフィルムと大差ありません。画像そのものも、指定のD-96やD-97といったMQ系モノクロ現像液と酸性定着液等を用いた通常処理で得られるのは単なる銀画像なので、セレニウムなどで調色されたプリントと比較しても耐久性は劣ります。一般的なマイクロフィルム並ということです。

従来型のマイクロフィルムは近年再評価されています。光学的に露光されたマイクロフィルムの解像能力には驚くべきものがあり、並の撮影用レンズの分解能を上まわるほどで、その情報密度と耐久性を合わせた総合力では今なお他の追随を許さないと言えましょう。とはいえ、これもPETベース等であり、映画アーカイヴフィルムと同様の限界があります。

富士マイクロ株式会社のwebページには次のようにあります。

 

銀塩写真には100年以上の実績があり、マイクロフィルムとしての使用も80年以上の実績があります。

1992年にマイクロフィルムの長期保存の条件が国際標準化機構ISO 5466として規定され、マイクロフィルムの期待寿命は500年とISO 10602において示されており、長期保存性が正式に認められている唯一の情報保存媒体です。また、保存条件は1994年に日本工業規格JIS 6009でも規定されております。JIS規格の永久保存条件は湿度が30%~40%、最高温度21度です。

 

いずれも、長期にわたって残すためには、恒温低湿に保たれていて紫外線が当たらず、さらに理想的には硫化水素等のガスから遮断されている環境で保管する必要があります。美術館や専門の保存施設でもない限り、そんな状態で写真を保存するなどまず不可能でしょう。

それに、写真は見られてこそ価値があるのではないでしょうか。光が当たらないよう収蔵庫の奥にしまいこまれることには疑問も感じます。

そして、画像の耐久性を考える上で忘れてはならないのは、たとえ公共のアーカイヴであっても、数百年後にそのような保存体制を維持できているという確実な保証はどこにもない、ということです。国家そのものからして、どうなっているのかわからないのですから。

データは永久に残るか

ならばデジタルデータ化された画像であればいつまでも残るのでしょうか。

20世紀に生産された音楽CDの多くで、蒸着層が剥離して再生不能となっています。CD-RやDVD等は保存性が改善されたということですが、「アーカイヴ」を謳う長期保存用のDVD-Rディスクでも、推定寿命がたったの30年。しかも再生するドライヴがなくなったらそれまで。新しい媒体にたえまなくコピーし続けていくほかありません。まるで文字発生以前の口承保存のような原始的保存法です。

長期保存可能を謳う記録媒体は各種発表されていますが、それを読み出す長期動作可能なドライヴのほうはというといっこうに聞きません。

石英ガラスに記録する方法なども提案されていますが、読み出し装置に同等の耐久性がない以上、後世の技術水準に依存しない平易な読み出し方法が必須です。しかし、これが確立された例をまったく聞きません。

ハードディスクはたやすくクラッシュします。そうなれば中身は跡形もなくふっとびます。寿命は10年程度といわれますが、明日壊れるかもしれません。SSDも書き換え回数が一定数を超えるとセクタが破壊されるとされ、使うごとに徐々に死滅へ向かっていきます。

バックアップ等も長期保存に対する根本的解決法ではありません。たとえオンラインストレージ上に保管しても、はたして100年後200年後にサーバの管理保守が続いているのか、誰にもわかりません。デジタルデータは、物質的な裏づけがないただの電気的符号であるだけに、物としての写真よりもさらに不安定で、後世に残る保証がない、といえるでしょう。

だからこそ上記のアーカイヴ用の映画フィルムの需要があるわけで、デジタルデータの寿命はそれらにすらまったく及ばないということです。

個別のデータの保管年数以前に、現在のバイナリデータ形式がいつまで存続しているかもわかりません。100年後にはもっと保管効率や利便性の高いまったく別のデータフォーマットに置き換わっている可能性がありますし、この分野でのここ数十年の進展を鑑みるに、むしろそうならないと考える方が非現実的です。デジタルでさえなくなっているかもしれません。そうなれば現在のデジタルデータは無用の遺物となりはてます。

デジタルデータは情報を流通させるための一時的な形態であって、情報の長期保存には原理的に適していないと考えたほうがいいでしょう。

 

ずっと色あせない写真を

千年写真はステンレス鋼や真鍮製です。

ステンレス鋼はその名の通りサビにくい鉄鋼材ですので、ステンレス鋼製の千年写真は、室内の日常の生活空間では半永久的に変化しません。屋外でも、海水に常時浸されたりしない限り、長期にわたって画像を保持します。

真鍮は黄銅とも呼ばれる銅と亜鉛の合金です。紀元前4世紀以前から使われてきたとされ、五円硬貨にも使われる、たいへん丈夫な素材です。これ自体は放置するとサビが発生しますが、サビ自体が強力な防護層となってサビの進行をくいとめ、半永久的に変化しない、きわめて安定した状態となります。千年写真の緑青仕上げでは、この特性を活用し、サビをコントロールすることで絵柄を浮かび上がらせています。

真鍮クリアコート仕上げの場合、耐久性の高い合成樹脂でコーティングしてあり、室内であれば数十年にわたって光沢と色合いを維持しますが、長期保存用途には適しません。

真鍮地肌仕上げは、時間がたつにつれて空気中の水分や硫化ガスなどと反応して次第に色がくすんできます。仏像のような古色へのゆったりした変化をお楽しみいただけますが、長期保存用途には適しません。

金属に写真乳剤を塗布したり、顔料を印刷するなどして画像を乗せた他社製品もありますが、その色素等の寿命は紙の写真と同等ですし、金属表面に付着しているだけです。いくら土台の金属が頑丈でも、絵柄が経年劣化したり、土台から剥がれてしまってはどうしようもありません。

光ディスク
ステンレス鋼について

「ステンレス」といわれる鉄合金でも、サビることがあります。ステンレス鋼製の流し台にサビが発生した経験がおありかもしれません。

ひとくちにステンレス鋼といっても、実はさまざまな種類があるのです。

フェライト系ステンレス鋼の一種であるSUS430は18-0とも称され、16%から18%程度のクロムのみでニッケルを含みません。こちらは安価ですが、薄い板を曲げて作られた安普請の流し台によく見られるように、水でも錆びます。これでは1000年の耐久性は望めません。

スプーンなどの食器や建材に広く使われるSUS304は、18-8とも称され、クロムを16%から18%、ニッケルを8%程度含有しています。オーステナイト系ステンレス鋼の一種で、フェライト系ステンレス鋼とは結晶構造そのものからして異なります。SUS304はSUS430より錆びにくく、強度も高く、光沢や質感にも高級感があります。

千年写真に採用しているSUS316もオーステナイト系で、SUS316のほうはさらにモリブデンを2%程度含有し、耐蝕性がより高められています。SUS304よりもさらにサビにくく、海水ポンプや船舶にも使われる耐久性の高い素材です。

SUS316は、身近なところでは厨房用品にも使われています。「たれ」やソースにはさまざまな成分がブレンドされており、意外にも腐食作用が強いため、通常のSUS304製の保存容器では、短期間で穴が開くことがあります。このような用途にはSUS316が使われます。

また、SUS316系のステンレス鋼材にはサージカルステンレスと呼ばれる種類もあり、医療分野で注射針や体内への埋込に使われるようです。

SUS316は高価なうえに加工がしづらいのですが、このような特徴から、品質確保のためにあえて採用しております。

ステンレス鋼種を区別する簡単な方法があります。SUS430は鉄と同様に磁石にくっつきますが、SUS304とSUS316は磁性がないため、通常は磁石に反応しません。SUS304とSUS430は色合いが違うので、同様の仕上げなら慣れれば区別できますが、SUS304とSUS316は外観だけでは見わけがつきません。

中国など外国製の安価なステンレス鋼材は、不純物が多いため比較的さびやすいと言われます。SUS316・SUS304等はJIS規格(日本工業規格)によって成分が規定されています。SUS316と呼べるのはJIS規格を満たした鋼材のみです。中国製などでJISに準拠していない製品は、SUS304・SUS430と表記できないため18-8や18-0と書かれたり、単に「ステンレス鋼(クロム16%)」などと書かれているだけだったりしますので注意が必要です。

ステンレス鋼製の千年写真では、JIS規格に準拠した国産の高品質なSUS316鋼材のみを使用しております。



















鉗子
ステンレス鋼製の医療器具
千年写真の耐久性

ステンレス鋼は、含有するクロムが表面に不動態層と呼ばれる数nm(ナノメートル)のごく薄い被膜を形成し、これが保護層となるため、鉄のように簡単にはさびません。不動態層は外力などで破壊されてもたちまち再生されますので、全体としてたいへん安定しています。

また、不動態層はきわめて薄いため、通常は無色透明で、それを通して金属の地肌が見えます。

余談ですが、クロムと聞くと、年輩の方は昔の公害禍を思い起こされるかもしれません。これは6価クロムという化合物によるもので、ステンレス鋼に含まれるクロムに害はまったくありません。3価クロムは穀物の胚芽部分に多く含まれており、クロムは毒物どころか必須ミネラルのひとつです。

構造色の説明
水の上の油膜に色がついて見える現象(干渉色)の概念図
この図では、赤の光(波長が比較的長い)と青の光(波長が短い)の場合、油膜面での反射光と水面での反射光が強めあうのに対して、緑の光(赤と青の間の波長)の場合、油膜面での反射光と水面での反射光の位相とが逆になり、互いに打ち消しあう。その結果、緑以外の光が見える。このように、油の膜厚と光の入射角の関係で特定の波長の光が見えなくなることで、その補色が現れる。油膜各部で膜厚が異なり、また見る位置によって光の角度が変化することにより、さまざまな色が見える。

ステンレス鋼製の建材等の溶接部分に、油膜のような虹色の色が見えることがあります。また、バイクのステンレス鋼製のマフラーに、虹色の模様がついているものがあります。この発色は「テンパーカラー」と呼ばれます。これは油がついているのではなくステンレス鋼そのものであり、色がついて見える原理は油膜やシャボン玉と同じです。やや専門的になりますが、構造色と呼ばれ、それ自体には色はないのですが、光の波長あるいはそれ以下の微細な構造によって色が発生するという現象です。構造色のうちでも薄膜による光の干渉に相当し、膜そのものは無色透明ながら、その膜の表面で反射する光と膜を通って下地面で反射する光とが干渉し、特定の波長の光が強めあったり打ち消しあったりすることであのような色が見えます。

テンパーカラーはステンレス鋼の成分である鉄の酸化被膜ですが、ミレニアム・フォトおよびステンレス・フォトの黒い発色は、ステンレス鋼のうちクロムが不動態化した層をさらに成長させて不透明にしたもので、テンパーカラーよりはるかに強靱です。ステンレス鋼を元来保護していて、そのさびにくさの理由である不動態がさらに厚くなった状態です。

なお蛇足ながら、千年写真をよく観察してみると、黒と白の溝だけでなく、黒い部分にはさらに微細な溝があり、白い部分にも細かい凹凸があります。このような溝や凹凸が光の干渉を発生させ、直射日光などの強い光を当ててよく見ると、細かな虹色のきらめきが見えます。これもまた構造色であり、CDやDVDに色がついて見えるのと同じ原理です。

千年写真は金属板を彫刻して画像を形成していますが、彫刻した凸の部分のみに、ステンレス鋼表面の不動態層を変質させて黒く発色させるという加工を施しています。この独自の技術により、黒い部分と金属光沢の部分との明暗比を調整して画像の階調を再現しています。

この黒色加工は、上で説明したように、ステンレス鋼表面の物性を変化させて金属反射を低減しています。塗装やメッキのように表面に付着させているのではないので、剥がれるということがありません。耐蝕性・耐光性も高く、塗装と違って半永久的に変色することはありません。

写真乳剤やインクや塗料で形成された画像は、光があたり、大気中の有害ガスと風雨にさらされているうちに、いつか必ず劣化し、画像が消失します。

ところが、ミレニアム・フォトとステンレス・フォトでは乳剤や塗料を塗って色をつけているわけではなく、100%ステンレス鋼製ですので、基本的に劣化が発生しません。

ですから千年写真は、いつまでも変わることなく、たいせつなお写真を後世までしっかりとお伝えします。薄く傷つきやすい膜に乗せられた写真とはもはや別物というべきでしょう。写真でもなく、彫刻でもない、写真彫刻という新しい媒体の誕生です。

 
千年写真は千年残るか

千年写真とは弊社の登録商標で、きわめて長い期間にわたって色あせないこの製品の特徴を象徴的に表した商品名です。ステンレス鋼製は室内であれば1000年を超える長期耐久性を有しますが、真鍮製の保存性はそれより劣ります。真鍮製の場合、室内で保存していただければ長期にわたる耐久性が見込まれるものの、屋外での使用には向きません。そのように使用条件によって保存状態が変化すると考えられます。お渡しした当初の品質を1000年間維持することを保証するものではありません。

かつてコニカという写真用品メーカーが存在し、カラー写真印画について「百年プリント」を謳っていました。これは、理想的な保存状態であれば、焼き付けたばかりの色の濃さが100年後に70%程度保たれているであろう、という意味でした。条件が悪ければもっと早く劣化することになります。屋外で雨ざらしでしたらたちまちボロボロになり、室内でも直射日光が当たる場所に置いてあったら、数カ月で変色したことでしょう。それでも、コニカ製のカラー印画紙は、当時の競合他社と比較しても、画像の耐久性についてはかなり進んでいると評価されていました。のちに合併しコニカミノルタとなってから、フィルム・印画紙部門が売却されるまで、次のようなアナウンスがなされていました。

 

「コニカミノルタ百年プリント」は、コニカミノルタが長年にわたって培ってきた感光材料の技術によって誕生した、高品質なプリントです。

特に、写真にとって天敵である色あせなどに対する耐久性が高く、高品質で美しい写真を永く保存することができます。※

 

※百年プリントの評価方法等の詳細は、以下の通りです。

〈評価方法〉

弊社評価基準処理したプリントの暗所における強制劣化テスト結果から、アレニウス法を用い保存性を推定したものです。その結果、温度24℃、湿度60%の環境条件下で一般的なアルバムのようなものに保存されれば、約100年間、視感上許容される範囲に画像が保持されるものと推定しました。視感上許容される範囲とは、弊社の画像モニター評価より設定したもので、画像の残存率が70〜75%と推定しています。

 

〈保管上の注意点〉

★直射日光や蛍光灯の下に長時間さらさないでください。

★高温・多湿を避けてください。

★アルバム及び貼付け用のノリは、写真用のものをご使用ください。

 

注:上記年数は、コニカミノルタフォトイメージング(株)の強制劣化テストによりシミュレーションされたものであり、コニカミノルタフォトイメージング(株)が保証するものではありません。

 

弊社の千年写真も、1000年間まったく変化しないということではありません。ただし、従来の写真を100年保存した場合の劣化より、千年写真を同じ条件で1000年保存した場合の劣化のほうが少ない、とは、相当の確かさをもって言えると思われます。なぜなら、千年写真を上記の引用のような条件で保管した場合、1000年後に画像濃度が30%も褪色しているという事態は考えにくいからです。「百年プリント」という商品名が、当該商品の性能に比して誇大でないと認められるなら、千年写真がそのように名乗ってもなんら問題はないと言えるでしょう。

千年写真シリーズ中もっとも耐久性が高いのは、ステンレス素材のミレニアム・フォトステンレス・フォトです。ステンレス鋼の中でも特に耐蝕性の高いSUS316を採用しており、室内の通常の使用条件ではサビが発生することはほとんどありません。半永久的保存に充分な耐久性があります。屋外でも、海沿いや工業地帯など過酷な条件下でない一般的な環境でしたら、実用的には相当長期間にわたり当初の状態を維持します。またHV硬度200程度と弊社製品中もっとも堅牢で(一般構造用圧延鋼材であるSS400はHV100から125。http://www.kikaika.com/sekkei/zairyou/index.html参照)、長い年月の間にこすれたりぶつかったり落ちたりしても、めったなことでは破損せず、写真を永く伝えます。墓石や屋外での使用にはミレニアム・フォトかステンレス・フォトをおすすめしております。

室内でしたら、強い力や強酸などで無理に破壊しようとしたり、ガスコンロの火が直接あたるような高温環境にでも置かない限り、劣化する要因がありません。

つまり、室内に設置される場合でしたら、半永久的な耐久性があります。屋外であっても、内陸部の戸外の墓石などなら、強制劣化試験の結果はまだ出ておりませんが、数百年程度は充分に残ると考えられます。塩分がつねにふきかかる海沿いのような環境では、細かい点状のサビが発生する場合があります。








バイクのマフラー
テンパーカラーの例
油膜
アスファルト上の油膜
いつまでも残るもの

ある有名美術館の所蔵品管理要項には、次のように定められています。

 

 所蔵品管理責任者は、資産として登録されている所蔵品が次の各号の一に該当する場合は、処分することができる。

(1)破損又は汚損が著しく、修復不能な所蔵品で教育研究資料として利用に耐えないもの(中略)

(4)保存の必要がないと認められたもの

(5)その他所蔵品管理責任者が処分を適当と認めたもの

 

つまり、美術館の管理責任者が「保存の必要がないと認め」るか「処分を適当と認め」た所蔵品は廃棄されると決められているのです。その時代のかけがえのない文化財である美術品を保存するということを最も重要な使命の1つに掲げている公共の美術館でさえ、収蔵品をいつまでも保管するわけではなく、その都度整理していく、と公言しているのです。

これはあくまで一例にすぎませんが、美術館が、所蔵するに足るだけの価値があるといったんは認め、所蔵された美術品であっても、いつまで残されるかわからないような時代に、今後なっていくことを示唆しているようにも感じられます。

あくまで噂ではありますが、日本国内の美術館のどこかで、毎年所蔵品がこっそり処分されているという話も聞きます。

図書館でも本を情け容赦なく処分していく時代ですから、どこかの誰かがいつまでも保存してくれるとあてにする方がまちがっているのかもしれません。

それならば、わたしたちの文化を次代に継承し、わたしたちがある時代にまぎれもなくいたということを語り伝えてくれるのはいったい誰なのでしょうか。

美術館・博物館といった公的機関に期待できないとすれば、伝えてくれるのは、わたしたちの家族、友人、子孫といった個人なのではないでしょうか。数としては限られたこうしたひとびとこそが、心からだいじに、思い出とともに伝えてくれるのです。

わたしどもがみなさまの写真をたいせつにする理由は、ここにあります。みなさまの写真は、それぞれのみなさまにとって、美術館に収められている美術品よりもずっとたいせつなものだと考えているからです。プライヴェートな写真は、パブリックな機関から価値を有すると認定された芸術品よりも価値が劣る、などということは決してなく、むしろずっと輝くことがある、とわたしどもは信じております。